狂言　ござる乃座 in KYOTO 4th

平成21年10月31日(土)十三時開演　　於：金剛能楽堂


小舞「海老救川」　　野村裕基

小舞「八島／後」　　野村遼太

地謡　　月崎晴夫・石田幸雄・野村萬斎・岡　聡史　


狂言「腰祈」　　　祖父　　　　野村万作
　　　　　　　　　　 山伏　　　　深田博治
　　　　　　　　　　 太郎冠者　高野和憲
　　　　　　　　　　 後見　　　　岡　聡史


狂言「謀生種」　 甥　　　　　 野村裕基
　　　　　　　　　　 伯父　　　　野村萬斎
　　　　　　　　　　 後見　　　　月崎晴夫


狂言「止動方角」　太郎冠者　野村萬斎
　　　　　　　　　　　 主　　　　　 石田幸雄
　　　　　　　　　　　 馬　　　　　 野村遼太
　　　　　　　　　　　 伯父　　　　野村万之介
　　　　　　　　　　　 後見　　　　高野和憲


ロビーで「ダイドードリンコ」からのお花を見つけたのは昨年のこの会でしたが、もう一年
経っちゃったんですねぇ。我々が見た舞台の映像が、ばっちり全国に流れたといううれし
い体験でした。昨年は肌寒い雨模様でしたが、今年はまあ晴れて暑い暑い！どないなっ
とんのや京都。

　さすがに京都だけあって客席には着物姿の女性も多く、それも「着飾ってます！」って
なお高そうなのじゃなくて、絣や紬のカジュアルな（でもたぶんモノはお高いんだろけど）
お出かけ着が多くみられるのが、やっぱり京都ですね。


■小舞「海老救川」「八島」

　この会で小舞を見せてくれるのは、2年前に続き2回目ですね。「海老救川」はタイトル
通り、小川で海老を掬いながら、吉野や伊勢や、各地の海老の名前を歌いこんでいくと
いうもの。扇を、海老を掬うザルに見立てる型がおもしろいです。裕基くん、最初に小舞
を見た時は、扇が大きすぎて袖に引っかかりそうになりながら舞ってたのになぁ。ほんと
に、ちょっと見ない間に大きくなったなぁ（オバハンうるうる）。いや、舞の技術とかどうと
かいうことより、10歳くらいの子がこんなに人前で堂々と「見せる芸」ができるのが。習う
より慣れろを地でいく伝統芸能のお家ってやっぱりすごいな。

　「八島」は、7月の大槻能楽堂で、そらもう涙もんの萬斎師の舞を見てしまったので、ち
と遼太くんにはハンデがあるか（苦笑）。比べちゃいかんのは当たり前ですけどね。でも
長い手足をいっぱいに使って、若いエネルギーを感じさせる舞でした。そのうち能舞台か
らはみ出るのでは（嘘）。がんばれ遼太くん。


■狂言「腰祈」

　大峰・葛城で修行した、自称「大法力の持ち主」の山伏が、老いた祖父を見舞います。
祖父が腰が痛くて伸ばせないというので、山伏が呪文を唱えて伸ばしてやろうとします
が、効き過ぎたのか腰がピンと伸びたままになってしまう。「少しゆるめてくれ」というので
もう一度術をかけ直すと、今度はエビのように曲がりすぎに。何度やり直してもちょうど良
い加減にならないので、祖父が「わしをなぶってんのか！」と怒り出し、山伏が追い込ま
れて幕となります。

　これはもう万作師祖父のキャラクターが一番のキモです。まず腰をかがめ「ほい、ほい、
ほい」と大げさに杖をつきながら橋掛かりを登場してくるだけで客席から笑いが。なんか
こう、ちんまりっとかわいいオモチャみたいなんですが（褒めてる）。やっとこさで本舞台に
ついて、葛桶にちんまり座る姿がまたかわいく、客席の視線を独り占め（表現が違う）。
呪文をかけられて腰がピーン！と伸びたはいいけど「こんなにずっと天を仰いでるのはし
んどい」と愚痴り、呪文をかけ直されたら腰が曲がりすぎて葛桶から転げ落ち、床の上で
呪文に合わせて「ひいぃ、ひいぃ」とビックン、ビックン跳ね回っておられました。そりゃも
うお気の毒なんですけど、かわいくておもしろくて会場爆笑。

　対する深田山伏なんですが、やっぱりちょっと真面目な人柄が出ていて、狂言に登場
する山伏の典型である「法力の持ち主であると言い張るうさん臭さ」はあまり感じられま
せんでした。真面目な山伏が、本気で祖父の腰を治そうとしているんだけど、力及ばず、
祖父を怒らせてしまう。真面目にやってるのに「なぶってる」と怒られる山伏の方が、逆
にかわいそうなように見えました。


■狂言「止動方角」

　10月の「万作を観る会」と同じキャストです。パンフレットには「遼太が今年から初めて
馬を勤めております」と書かれており、遼太くんの「集中お稽古期間」なのかな。手足が
すらっと長い遼太くん、堂々たる馬っぷり（何だそりゃ）。引き締まった体格はまさにサラブ
レッドです。伯父のセリフの中に「どうじゃ、よく肥えた馬だろう」というのがあるのですが
あんまり肥えてないかも（苦笑）。でも腿の張りは良いんだろうなぁとか在らぬ想像を（や
めなさい）。太郎冠者の「はい、はい」という掛け声に合わせて「ヒヒーン！」といななく息
も、よく合っています。「人馬一体」という言葉がぴったり。登場してから数十分、ずっと舞
台上を四つん這いで動き回るわけですが、動きが鈍ることもなく、最後に全速力で駆け
去っていく素早さは、さすがに若いんだなぁ。

　萬斎師、得意中の得意ネタ（ネタかよ）のヤンチャ坊主系太郎冠者に、恐いんだけどど
っかヌケてる石田主人。このコンビネーションもさすがのおもしろさ。万之介師ののんびり
人の好い伯父も味わいがあって、この配役でおもしろくないわけがない。まさに盤石の布
陣であります。爆笑必至の「縁起もの」と言ってもよいかも。

　そうそう、馬は面をかけてて顔が見えないのですが、先に遼太くんの小舞を入れたの
は、京都のお客さんに顔を見せる「サービス」なんでしょうかね（笑）。子方さんと若手さん
の頼もしい姿を披露した今回のこの会、西国の我々に対する萬斎師の「ウチの子、ちゃ
んと育ってますよ」宣言だったのかも…と思ったりします。