ござる乃座 in KYOTO 5th


【るーなさんレポ】

平成２２年１１月２３日(火・祝)　１４時開演　　京都・金剛能楽堂

昨日は暖かだったのに、今日は風も強く寒い京都。
連休でごった返す中、遠征組さんお疲れ様でした。


◆狂言「牛盗人」　

　　藤吾三郎：野村萬斎　　奉行：野村万作　
　　太郎冠者：深田博治　　次郎冠者：月崎晴夫
　　子：野村裕基

　　地謡：野村遼太・石田幸雄・野村万之介・高野和憲・中村修一
　　
　　後見：竹山悠樹

◆小舞「暁」　野村裕基
　 小舞「名取川」　野村遼太

　　地謡：竹山悠樹・石田幸雄・野村万之介・深田博治・岡聡史

◆狂言「六地蔵」　　　

　　すっぱ：野村萬斎　田舎物：高野和憲
　　すっぱ仲間：野村万作・野村万之介・石田幸雄　　　
　　　　　　　　　　　
　　後見：岡聡史・中村修一


「六地蔵」のすっぱ仲間は「やや若手(笑)」で演じられることが多いと思いますが、
今日は「豪華超ベテラン組」です。
舞台上での往復はきつかったでしょうか？
何回観ても大笑いできる楽しい曲でした。



【瑞穂さんレポ】

えーと、実はわたくし脇正面の最前列で拝見させていただきまして…チケットが届いた時「え？
私でいいんですか？」とかうろたえてしまい（意味不明）いささかドキドキしながら席に着いたもの
であります。

■『牛盗人』

昨年、ござる乃座東京で上演された曲なので、ご覧になった方も多いと思いますが。パンフレット
で萬斎師自身が「笑いよりも緊迫感が立つという意味では『武悪』にも匹敵する曲」と書かれて
いる通り、狂言らしからぬ、と言っていいのかどうかわかりませんが、完全なる「ドラマ」でした。
奉行と子方のやり取りでくすくす笑いが起こっていた所はあったのですが、爆笑というわけでは
なく。裕基くんがまあ立派になって(親戚のオバハン化)という感じで、しっかりと役を演じていまし
たね。

萬斎師は左目にかぶさるくらい長めの前髪。シテの出の時こそきっちり額を上げてましたが、最
初の立ち回りであっという間にバッサバサに。その後は鬼太郎状態（笑）でしたが、おかげで蔭
のある表情が映えて、たいへんよろしかったです。
　
で、この曲のおもしろさというのは、前半の緊迫感と後半の世話物的な展開の緩急。万作家、と
いうか萬斎師シテならではのドラマ性だと思います。シテが縄打たれるまでの捕り方との立ち回
り。シテに縄かけようとした月崎次郎冠者がともえ投げ(？)をくらった体（てい）で、その場で宙返
りしたのにも驚きました。なんせ目の前だったし。そして、縄打たれてうずくまってるうちひしがれ
た風情（何だそれ）や、厳しく引き締まった表情。牛を盗むに至る理由を語る語り口の端正さ。そ
れがあって、親子の和解にいたる緩和があるんですね。前半が緊迫感に満ちているだけに、親
子の情というのがじんわり染みてくる。
　
もともと、子が親を告発するという理不尽な筋立ての曲です。「型どおりにやる」のが狂言の本来
だとは言われても、これ、文字通りに型どおりさらっとやったら、どうなるんでしょうか。むしろスト
ーリーの不自然さばかりが目立たないか？と思うんですね。笑い処の少ない曲だからこそ、演者
の存在感というか「演技力」が必要になるような気がします。「狂言に『演技力』は要らない」とい
うご意見もありますが、狂言における「演技力」とは何か。表情を作るとか声色を変えるとかそう
いうことではなく。もともと筋立てに理不尽なところのある話に説得力を持たせる存在感というか
そんなものではないのかな、と思います。萬斎師がそれなりに年を経てこられた今だからできる
親役であろうし、萬斎師でなければ、こういうドラマチックにはならないかもしれない。こういう曲
が和泉流専有曲であるというのも、何か所以のあることなのかなぁ。
　
などと言いながら、ラスト、子をやさしく導いて退場させたシテの姿にしんみり、颯爽とした感謝の
舞にほれぼれ。ああ、ほんとになんて美しい親子三代でしょうかねぇ。

■小舞『暁』『名取川』

『暁』は『棒縛』などで舞われる小舞で、主に子ども向けの練習曲とのこと。『名取川』はおなじみ
の狂言『名取川』に出てくる川尽くしの曲です。裕基くんと遼太くんの小舞も、関西ではこの会くら
いしか観る機会がないので、二人の成長を確認する機会というか（笑）。見るたびに、これからど
んなふうに成長するのかと楽しみになります（完全親戚のオバハン化）。

■『六地蔵』
　
もう何回見たか、というおなじみの曲ですが。シリアスな『牛盗人』と打って変わって、終始爆笑
の客席。すっぱ仲間は若手がやることが多いですが、今回の長老トリオのニセ地蔵っぷりがもー
もーもーもー！反則だわありゃ。万作師のストップモーションとか、笑わずにいられますかって！
　
いちおうシテのすっぱ萬斎師が仕切り役ですが、この長老パワーでは何ともかすみがち。ご老人
がノリノリ（死語）で若者に使われてやっている感じでしょうか。「鐘楼堂、鐘楼堂！」とシテが急
かすのに「はいはいはいはい」みたいな感じでいそいそ走っていくのが、何とも微笑ましい。いや
しかし失礼ながら、あのお年でほんまによう走られますわ皆さん。何度も見た『六地蔵』なんです
が、演者の年齢で、曲の表情が全く変わるのだなと実感しました。

曲とは関係ないですが。地謡におしゃれなパーマをかけた若者がいたので誰かなぁ？と思った
ら中村修一くんでした。大人になったんだねぇ。こういう一門の若手の成長ぶりを見られるのも、
楽しみの一つですね。