第1回桂諷會〜神々の饗宴
11月24日14：00〜 於：矢来能楽堂
■素謡『神歌／父尉延命冠者』
父尉：浅見真州 延命冠者：長山耕三
地頭：長山禮三郎
■舞囃子『養老／水波之伝』観世銕之丞
大鼓：亀井広忠 小鼓：大倉源次郎 太鼓：小寺真佐人 笛：一噌幸弘
地頭：山本順之
■狂言『福の神』
シテ福の神：野村萬斎 アド参詣人：高野和憲、竹山悠樹
地謡：深田博治、石田幸雄、中村修一
大鼓：亀井広忠 小鼓：大倉源次郎 笛：一噌幸弘
■仕舞『道明寺』長山禮三郎
『龍田クセ』山本順之
『賀茂』観世喜正
■能『三輪』
前シテ里女、後シテ三輪明神：長山桂三
ワキ玄賓僧都：宝生閑 アイ里人：石田幸雄
大鼓：亀井広忠 小鼓：大倉源次郎 太鼓：小寺真佐人 笛：一噌幸弘
地頭：観世銕之丞
シテ方の若手、長山桂三さんの個人の会立ち上げ第１回ということで、銕之丞
師はじめ流儀の主立った方々が勢揃い、ワキ・狂言・囃子も超豪華メンバー。な
かなかこれだけのメンバーが揃うことはないんじゃないでしょうか。こぢんまりし
た矢来能楽堂なので、演者の息づかいまで聞こえそうな距離感もGOOD！
「神々の饗宴」という副題どおり、曲はすべて神さまがシテの、おめでたいもの
でした。
■素謡『神歌／父尉延命冠者』
素謡の『神歌』は、「とうとうたらりたらりら…」で始まる『翁』のシテと千歳の部
分のみを謡うものです。
小書の「父尉延命冠者（ちちのじょうえんめいかじゃ）」は、翁の古い上演形態
を残すものだそうです。翁の代わりに父尉、千歳の代わりに延命冠者という役名
になっており、延命冠者はお釈迦様のお使い、生まれたところは「とう（りっしん
べんに刀）利天（＝とうりてん、仏教の天上界のひとつ）」という設定になって、神
仏習合の古い形を伝えています。謡の詞章も変わって、千歳よりずいぶん長く
なっています。長山耕三さんが千歳というにはちょっとお年が…（失礼）というの
もあるのか？
浅見真州師の品の良い座り姿と上品な声に、気持ちよく聞き惚れてました。
■舞囃子『養老／水波之伝』
シテは山の神。舞囃子では後半の「神舞」からキリまでを舞います。
銕之丞師のずんと腹に来る、能楽堂全体に響き渡るような謡いが始まったと
たん、空気に重みが加わったような感じがしました。「神舞」の舞はそれほどハ
デな、飛んだり跳ねたりはないのですが、さらさらとテンポが速く、颯爽としたも
の。あの銕之丞師の重量級（失礼！）のお体が、舞台を滑るように動きます。装
束を着けずに黒紋付なので、体のキレがよくわかる。なんというか…深山幽谷
にどっしりと据わった岩が、清流に打たれ、しぶきを上げてくるくる舞っているよう
なイメージ（日本語矛盾してますか？）。
囃子がまたこのメンバーですから、大小の鼓は切り裂くようにガンガン来るし、
笛はシャウトするし。すごいです！ キリに向かって、どんどんテンションが上がっ
てきます。キリは地謡が入りますが、すいません、はっきり言って地謡が囃子の
テンションに負けてた…。舞と囃子のセッション。迫力なんてもんじゃありませ
ん。もうキリで終わるのが惜しくて、ずっとずっと続いてほしいなぁ…と思うほど。
気持ちよすぎて、涙が出そうになりました。心底スタオベしたかった！
舞囃子だけで、能１曲見たほどの充実感でした。『養老』本曲見たいなぁ。もち
ろん銕之丞師のシテで。
■狂言『福の神』
これは去年の出雲大社で、万作師のシテで見ているのですが。いや〜やっぱ
り、親子と言えどもキャラクターが全然違います。
参詣人二人が出雲に参って、神前で拝んで福の神登場。幕の内からのびや
かな「は〜っはっはっはっ…」という笑い声が響くと、それだけで客席からくすく
す笑い声が沸いていました。大らかに両手を広げて登場した、いかにもオメデタ
イ（笑）空気をまとった萬斎福の神。万作師の、じんわりとふくよかな、穏やかな
空気の流れる福の神に対して、萬斎福の神はまぁ何というか娑婆っ気たっぷり
（笑）。神々しくもありがたくもなく、煩悩漫々な人間くさい（誉めてます）神さまで
す。お神酒さえ飲ませれば、何でも願い事をきいてくれそうな。特に夫婦円満に
は効きそうな（おい）。自分の席が脇正面だったので、面の下から白い横顔がず
〜っと見えてたせいもあるのかもしれませんけどもねぇ。若々しく艶やかな、エネ
ルギーに満ちた福の神で、祝祭の場にはふさわしかったのではないかと思いま
す。
■仕舞『道明寺』『龍田クセ』『賀茂』
『道明寺』は天神の使いの白大夫がシテの、厳かな荘重な舞。『龍田』は紅葉
の神である龍田姫の、ゆったりとした女舞。『賀茂』は賀茂神社の別雷神（わけ
いかずちのかみ）が雨を降らせ、五穀豊穣を祈る勇壮な舞。自分の好みとして
は、やはり観世喜正さんの迫力ある勇壮な舞が好きでした。
■能『三輪』
奈良の三輪神社の伝説をもとにした曲です。舞台の中央に、杉の葉を上に立
てた「杉小屋」という作り物が出て、シテはこの中に入って装束替えをします。こ
れは三輪の神杉を表しているそうです。
前場では里の女が玄賓僧都のところに毎日供物を届け、不審に思った僧都が
訳を尋ねると、「三輪の神杉を見てみよ」と言い残して消える…というもの（らし
い）のですが、すいません寝てました…（汗）
後ジテの三輪明神は、巫女の姿で杉小屋から登場します。玄賓僧都に三輪明
神の由来（三輪の神婚説話）を語り、三輪の神は伊勢の天照大神と一体であり
「天の岩戸隠れ」の時に神々がはやし立てたのが神楽の始まりだとして、その
様子を「神楽」の舞で見せます。最後はテンポの速い神舞になり、夜明けと共に
消えていきます。
「神楽」の舞は、大小の鼓と太鼓が一定のリズムを刻むのへ、ビブラートと装飾
音（すいません笛用語がわかりません）の笛がかぶさって来て、軽やかで華や
かなメロディー。シテは扇でなく御幣を持って舞います。
キリの神舞（早舞）では、またまた囃子のテンションがガーッと上がって来るん
ですが…うーん、若手さんではやはり、このテンションについていくのは難しい
か。囃子が「異界」をかもし出すのに、おシテさんは普通の「人」のまんまだった
ような…。ちょっともったいない感じですが、若手さんにはいい経験になったのか
なぁ。