万作・狂言十八選　第七回

9月26日（金）16：00〜　　於：旧金毘羅大芝居（金丸座）



■解説　深田博治

■素囃子「獅子」　

　　　　　笛：森田保美　小鼓：林光寿　大鼓：守家由訓　太鼓：三島元太郎

■『宗論』

　　　　　浄土僧：野村萬斎　　法華僧：石田幸雄　　宿屋：高野和憲

■『髭櫓』

　　　　　髭男：野村万作　　妻：野村万之介　　注進：月崎晴夫
　　　　　立衆：深田博治、高野和憲、竹山悠樹、岡聡史
　　　　　地謡：野村萬斎、石田幸雄、時田光洋、加藤聡



この日を待ちわびておりました、念願の万作家in金丸座公演です！
能楽堂でも野外公演でもない、芝居小屋ならではのお祭り気分に満ちて、笑いと拍手に
あふれた公演でした。楽しかったです〜。

まず参考までに。
旧金毘羅大芝居（金丸座）はこんなとこです。
http://www.town.kotohira.kagawa.jp/kanko/midokoro/kanamaruza/index.html

歌舞伎上演用の芝居小屋ですから、舞台の背景に大きな松の絵があるのですが、この
日は全体を黒幕で隠し、代わりに蓮の花の作り物（お寺で、仏像の前に置かれてるような
やつ）が置かれていました。これは『宗論』のテーマに合わせたものでしょうね。
確か内子座公演の時に、萬斎師が解説してたと思うのですが。歌舞伎舞台の背景の松
は、もともと能舞台の鏡板の老松を写したものなんですが、能舞台よりもえらいドーンと大
きくハデになりすぎてて使えないんですね（苦笑）。なので内子座の時も、背景を黒幕で
隠し、代わりに金屏風を置いてました。

舞台には据え置き式の本舞台と、短〜い（笑）橋掛かり。代わりに花道に、板張りの長〜
い橋掛かり（？）が設置されております。そう、今回は花道を使うんですね〜。演目が『髭
櫓』と知った時から、その予想はついてたんですが。もしかしたら、花道があるから『髭櫓』
を選ばれたんでしょうかね？

昔ながらの小屋ですから、客席は枡席で座布団敷き。自分の席は、下手の仮花道（細め
の通路兼用の花道）沿いの桟敷で、ワキ座の対角線上に当たるとこ。舞台には斜めから
対する位置になります。こういう角度から舞台を見るのも、なかなかできない経験です。


まず解説。深田さんの解説は、各曲のざっとしたあらすじの説明と見どころ、語句の説明と
まあまあ定番の内容です。ですが…最初は調子よく喋ってたものの、『宗論』の途中のお
題目がわからなくなり「えーと、ちょっと待ってくださいね、長い曲なんでわからなくて…」と
アタフタと手にしたメモを広げて確認。その後もメモに目を落としながら…けっこうグダグダ
気味（苦笑）。まぁ若旦那の“立て板に水”なトークと比べてはいけませんわな。がんばれ
深田さん（笑）。あ、「肥後ずいき」の話は出ませんでしたよ〜（それはええっちゅうに）。


■素囃子『獅子』

「獅子」は能『石橋』の後場などで奏される、霊獣・獅子が牡丹の花に戯れる様子を表した
曲だそうです。太鼓入りでテンポの早い豪壮なメロディーと、笛だけ、小鼓だけで奏される
ゆるやかながら緊張感あるメロディーとが交互に出てきます。

さすがベテランの味というか、太鼓の三島師の掛け声が一番気合いが入って力強く、他の
若いお三方がちょっと弱く感じたのが物足りなかったかな。一番最後の笛の吹き切りとい
うんでしょうか、「ピィーー！」と長く伸びる音を、もうちょっと長く、力強く聞かせてほしかっ
たな、と思いました。素人の勘違いだったらすみません（汗）。


■『宗論』

もうこれは、管理人さんのセルリアン・レポで語っていただいていますので（手抜き）ていう
か、ほぼ同じ印象をもちました。

ねちっこい浄土僧は、そのまんまだとすごくイヤ〜な感じになると思いますが、若旦那自身
の、根っこの明るいいじめっ子、トリックスター的なキャラクターが有効ですね。しつこく法
華僧をからかうのですが、イヤミがない。すっきりした見た目（笑）のせいもあるのでしょ
う。真面目すぎて相手にしてくれないオヤヂ法華僧に、あれこれと理屈をつけておもしろ
がっている子どものような感じもします。今回の法華僧は壮年の石田師ですが、たとえば
万之介師のような、もっと年輩の頑固ジジイ僧だとどういう対比になるのか、見てみたい
な〜と思いました。

この明るい萬斎浄土僧のおかげか、まぁ客席の笑いの絶えないこと！朝の勤行で「うにゃ
らうにゃらうにゃら…」と数珠をもむところで爆笑、これに対抗して法華僧がものすごいスピ
ードで「うじゃうじゃうじゃうじゃ！」と題目をとなえてまた爆笑。拍子にかかって「な〜もう
だ〜」「れ〜んげきょ〜」と踊り合うところではなんと拍手が！能楽堂ではここで拍手が入
るなんてまず無いでしょう（笑）。「南無阿弥陀仏」「南無妙法蓮華経」を言い間違えて、ハ
ッと顔を見合わせるところでまた爆笑。

最後の連れ舞、やっぱりセルリアンと同じように、ちょっと二人の声が合ってないような気
がしました。萬斎師の声が高すぎるのか、石田師の声が上がりきってないのか、微妙に
ズレて気持ち悪い感じ…。セルリアンと両方ご覧になったどじこさん（なんと、おいでてたん
ですよ讃岐に！）によると「今回は前より石田さんが合わせに来てた感じ」だそうですが。
舞の足拍子も合ってなかったし。わざと合わさないのがこの曲のやり方なのか？と思って
しまったほどですが。うーん、でもやっぱり最後の留めでぴたりと合わせてもらった方が、
見てる方は気持ちいいけどなぁ。


■『髭櫓』

「ござる乃座」でもやられた曲ですし、詳しいストーリーは省きます。

今回の見どころは特に、花道を使った演じ方です。シテの髭男とケンカして叩かれた女房
は、本来の橋掛かりではなく、花道をたたたーっと走り去っていきます。ここで「お、何かあ
るな！」と客席の期待が膨らんだ模様（笑）。本舞台で男が大仰な櫓をつけたところで爆
笑。

さて続いて、来ました！巨大毛抜きを背負った女房を先頭に、槍や長刀で完全武装の女
衆が花道にずらり。客席、「おおっ！」と笑いと共に拍手喝采。何せ花道ですよ、きれいど
ころ（のつもり）が手の届くとこに並んでるんですから。「お手を触れないでください」状態
（違）。まぁ反対側の客席の人は、きれいでない尻（失礼）の行列を眺めさせられてたわけ
ですが。

このあたりからセリフはなく能のように謡で、髭男と女房、地謡のかけ合いになるのです
が、拍手が多いので、地謡は拍手の途切れる間（ま）をはかって謡っていたようです。こう
いうのは絶対、能楽堂ではあり得ないだろうからな〜。

そして女衆が武器をかまえ、本舞台に突撃！髭男、刀を抜いて応戦。もう会場、拍手と笑
いで大喜び。チャンバラ見物の気分です。切り組みの末に、女房が巨大毛抜きで髭をむし
り取ると大喝采！「やったー！」の声も（笑）。満場の拍手に包まれながら、女房と女衆は
意気揚々と花道を引きあげていきました。

拍手が静まったところで、ひとり舞台に取り残された髭（もう無いが）男。さみしく「くっさめ
！」で留めて、すごすご引っ込みました。盛り上がりがすごかったものだから、余計に男の
みじめさが際立ちましたね〜。

今回のこの盛り上がり、芝居小屋の持つ大らかな空気にプラスして、やはり花道を使った
ところがポイントでしょう。本来の能楽堂ではまず見られない、客席の真ん中に役者がず
らりと並ぶ、このインパクト。客席と舞台との一体感があるんです。「能楽堂では拍手をし
ちゃいけない」なんて、そんなお約束は知ったこっちゃありません（爆）。

能狂言の原初は、神社仏閣の境内で行われていた野外劇だった。まさにその「芝居＝客
は芝の上に座って見る」雰囲気がここに在ったと思います。

ちょっと思いましたが、こういう小屋で能をやったらどうなんだろう。『土蜘蛛』で、蜘蛛の精
が花道でバーッと糸をまくとか、『安宅』で弁慶一行が花道にずらっと並ぶとか。能の見方
がまた変わると思うんですけどねぇ。無理ですか（苦笑）。

今朝、こちらのローカルニュースで、この公演の模様が少し流れて、万作・萬斎両氏の一
言コメントもありました。万作師は「昔の芝居はこういう素朴なものだったんだろうなという
のが感じられました」、萬斎師は「花道を使ったら拍手が出たのが新鮮でしたね〜」と。や
はり演者の方も、同じように思われたんですね。