野村万作・萬斎狂言会
3月8日14：00～ 於：滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール中ホール
■枕（解説）
■独・素狂言「柑子」 野村萬斎
■「鏡男」
夫・野村万之介 鏡売り・高野和憲 妻・石田幸雄
■「骨皮」
新発意・野村萬斎 住持・野村万作
檀家・竹山悠樹、月崎晴夫、深田博治
※瑞穂さんレポ
本舞台の両側に橋掛かり、袖には落語と同じ「めくり」、舞台の背景には襖、襖の上には
「びわ湖狂言」と墨文字で書かれた額、さらに舞台の上には「狂言」と書かれた紅白のち
ょうちん…「ん？どこかで見たような」と思われた方、そうです、これは2006年12月のスペ
ース・ゼロ「新宿狂言」のセットがそのままお引っ越ししてきたのです。曲目も全く同じで
す。ということで詳細は管理人さんのレポ「新宿狂言vol.13」をご参照下さい（手抜）
…というわけにもいかないので（苦笑）ちょっと書いてみます。
■枕
開演５分前のベルの代わりに、鳴り響く出囃子の太鼓の音。知らない人は「何で太鼓
？」な感じだったと思います。
まず後見の岡くんが紫色の座布団を舞台中央に置き、「めくり」をめくって退場。続いて
登場してきました萬斎師、座布団に座り、深々と一礼。本日のお召し物は青紋付に袴。袴
の縞がいつもより太めで派手な感じなのは、落語家をイメージしたのでしょうか。
いつもこのびわ湖ホールの公演は「新宿狂言」の企画をそのまま持ってくるということで
今回のテーマは「落語になった狂言」と説明。「そういえば今は朝のドラマで落語やってま
すね。狂言師も出てますが（笑）」。
それぞれの曲目の説明に入る前に、ちょっと言っておかないと…ということで「びわ湖ホ
ールが大変なことになってるようです」と。実はこのホールが、滋賀県の予算削減策の対
象になっており、半年間休館もあり得るという危機に…そこで有志の方が、県の方針を転
換するために署名活動を行っているそうです（入場の際に渡されたチラシの中に、署名用
紙も入ってました）。「こういう時、削られるのは文化芸術関係の予算なんですよねぇ」とち
ょっと辛そうな若旦那。やはりご自身も公共劇場の芸術監督であり、他人事ではないとい
うお気持ちなんでしょう。「この公演も９年続いてますし、署名に協力してくださいね」と、異
例のお願いから始まりました。
続いて各曲目の解説。『鏡男』は落語『松山鏡』の元になったもの。能にも同じく『松山
鏡』という曲がありますが、こちらは亡き母と生き写しの娘が、鏡の中に母の面影を見る
…という設定の悲劇で、あまり上演されない稀曲だそうです。「松山」とは新潟県の松之
山のことで「毎年僕も公演をやってるんですが、松之山温泉という秘境がありまして…」秘
境ですか。「鏡が人間を映し出すといいますか、鏡に対した時の人間性が笑える曲です。
叔父らしい味わいをお楽しみいただければと思います」。ちなみに落語では、最後に尼が
出てくるそうですが「どんな結末になるんでしょうねぇ？」と若旦那ご自身も落語は知らな
いご様子。
『骨皮』は、狂言には珍しい色っぽい話。「詳しくは見ていただくとして、ちょっとキーワー
ドだけご紹介しますね」と。まず「いちゃ」は、若い娘さんのこと。狂言で若い娘が出てくると
たいてい「いちゃ」という名前になります。「眠蔵（みんぞう）」は僧侶の寝室や納戸のこと。
「寝室…つまりベッドルームですね」ってなんでそんな嬉しそうなんだ若旦那。最後に「鳩
の鳴き声」が出てきますが、ここがポイント。「僕らの世代だと、ロックのプリンスの『鳩が
鳴く時』っていう曲があるんですが…まぁ洋の東西を問わず、鳩の鳴き声っていうのはそ
ういう形容詞になるんですねぇ」にこーっと満面の笑みで言われてもなぁ。
しかし、いつものマイク両手持ちと違って、座布団に座っての解説で手持ちぶさたなんで
しょうか若旦那。話してる間ずーっと、手にした扇を立てたり握ったり振ってみたり…なん
かかわいいぞ。
最後に「独・素狂言」について。これは能で言う「独吟」と「素謡」を組み合わせた造語だ
とか。「もともと素狂言、袴狂言というのは、茂山家がやられてますね」。発想のきっかけ
は、狂言の稽古というのは、自分の役の台詞だけ覚えればいいというのではなくて、相手
の台詞もすべて覚える。いつでも、どの役でもできるようにしておかなければいけないと
いうことですが、そこから、１人で全部語ってみたら、と思いついたとのこと。「前にこれで
『佐渡狐』をやったんですが…失敗したのは、３人出てくるんですよねぇ（苦笑）。途中でど
の人が喋ってんのかわかんなくなって、頭ん中真っ白になって、止まっちゃいました」
制作秘話（？）を披露したところで、「今回は無難に、２人だけのをやります」と『柑子』の
ストーリーをざっと説明。「平家物語に関する事がたくさん出てきます。平相国は平清盛の
ことですね、あと俊寛とか、六波羅探題とか…六波羅探題って、この近くですよね」いや、
だいぶ離れてると思いますが…。
「ではちょっとやってみましょう」と、いきなり姿勢を正し、『柑子』が始まりました。落語な
らここで、羽織を脱ぐとこなんでしょうね。
『柑子』の詳しいストーリーについては、管理人さんレポをご参照ください（手抜）。ちょっ
と太郎冠者と主の区別がつきにくく、どっちが喋ってるのかわからないという箇所もあった
のですが。やはりこのあたりは、１人語りに慣れている落語家さんとは違いますね。１人の
せいか、普段の狂言の時よりも間の取り方が早いようで、あっさり終わっちゃったな？と
いう印象でした。まぁ『柑子』自体が短い曲ではあるんですが。しかし太郎冠者の、３個目
の柑子を食べちゃった言い訳で「平家物語」の語りになるところ、普通の喋り方から徐々
に様式的な語りになっていくところは、さすがの声の張りでした。
■「鏡男」
詳しいストーリーは管理人さんのレポをご参照下さい（こればっかり）。そういえば枕（解
説）で「鏡男…英語で言うとミラーマンですね」と仰ってましたが、このギャグもおんなじで
したわ（笑）。
セットの使い方も同じで、背景の襖がスルッと開いて鏡売りの高野さんが出てきた時に
はちょっとびっくり。会場から「うわっ」と小さな声も上がっていたり。
万之介夫が家に帰るところは襖が上に上がり、背景が青空から夕暮れへ、そして家の
丸窓に…と時間経過を表現する映像になりました。そして問題の（笑）シーン。石田妻が
鏡をのぞいたとたん、石田さんの大アップが背景に丸く映し出されて、会場大爆笑！ い
やはや、あれほどアップで見ると大迫力です。万之介夫が、妻をなだめるために一緒に映
り込むところは、映像が乱れてきちんと映らなかったのは、ちょっと残念でした。
それなりに年を取っている石田妻が鏡を知らないのも可笑しいのですが、この年になっ
ても浮気疑惑でケンカするとは、この夫婦、仲がいいのか悪いんだか…。万之介夫ならモ
テる心配はないから大丈夫（失礼）とも思いますが。老練なお二人だからこそ、生臭くなら
ずにほのぼのとした味わいが出るんでしょうね。最後に「カー、カー」と烏の鳴き声が聞こ
えてきたのも、オマヌケ感をアップしてました。
で。２人が幕に入ったところで、上にしまわれていた背景の襖が、またスルスルと降りて
きた…のはいいのですが。床まであと数センチ、というところで、なんとガタン！と襖が外
れて落ちかけましたっ！ これまたドリフよろしく、ズッコケのオチなのかなと思ったのです
が、そうではなく事故だったよう（いや、すげえいいタイミングで外れたもので）。びっくりし
ました～。あのセット、下に敷居がないんですねぇ。休憩時間の間に直されていたようで
す（苦笑）。
■「骨皮」
詳しいストーリーは管理人さんの（もうええっちゅうに）というか、私はこれ見るの２回目
です（１回目は「ござる」でした）。最初に見た時は、なかなか衝撃的というか何というか
「こういうネタを万作家もやるんだなぁ」と思ったのですが。
いやー、萬斎新ぽち、おバカ度がますますパワーアップしてました！ 檀家衆をうまくあし
らったと思って、老師に報告に行くときの得意げな顔、老師に叱られている時の納得いか
ない不満げな顔、表情がくるくる変わるのが何ともいえずおかしい。そして老師の色事を
あばきたてる様子…もう、何でこんなに嬉しそうなんでしょうか新ぽち。素でやってますか
若旦那（おい）。木曜日に血にまみれて苦悶していた天狗さんと同一人物とは思えませ
ん！
「いちゃを眠蔵に連れ込んで…」と告発するところでは、背景に女のシルエット（どなただ
ったんでしょう？）が映り、「あれ、いけませぬ～」みたいな感じで倒れ込んだと思ったら、
ぽっかりピンクのハートが浮かび上がりました。これにも会場、大爆笑。スタッフもノリノリ
（死語）だったんでしょうねぇ。
終い太鼓が鳴り、照明が落ちたところで、再び後見の岡くん登場。最後の「めくり」をめく
ります。まだ何かあるのか？と思ったら、そこには「気をつけてお帰り下さい」の文字。ここ
でまた会場から拍手がわきました。最後まで寄席の雰囲気で、サービス満点の公演でし
た。
※どじこさんレポ
早速のレポ有難うございます。下ネタを話すときのうれしそうなお顔と、鞍馬天狗の凛々し
いお姿との落差激し～い（爆）映像の凛々しさも素敵ですが、いたずらっ子のような笑顔
で話す若旦那を見ていると、何故かホッとします（笑）身近に感じられるからかも（席も２列
目センターだったし…）♪
独・素狂言は前日よりはうまくなっていましたよ（前日からお泊りだった・汗！）もう一回や
れば、もっとうまくなるかも～～（爆）
「鏡男」の鏡の映像は残念でしたね！新宿狂言ではもう少し見えたような気がしましたが
…。新宿狂言では万之介さんが体調を崩し、一日目は三演目すべてに登場した若旦那、
一夜漬けの台詞覚えに大変だったようですね。ということは、万之介夫は初見。若旦那夫
はもっと生々しかったかも。
「骨皮」の万作住持は世の中悟ったようなお顔で、とてもいちゃを引き込むようには見え
ません（爆）萬斎新発意は日頃頭の上がらない親父様をやり込め、嬉々としておりました
（笑）最後には鳩と馬の鳴き声で終了！楽しめました！！
今年、新宿狂言を見損ねたので、もしびわ湖ホールで再現してくれるなら、また遠征しま
～す♪♪