横浜能楽堂・横浜にぎわい座共同企画公演
『能舞台で聴く落語 寄席で見る狂言』壱
2005年2月18日（金）
★昼の部 14:00～ 於：横浜にぎわい座
■狂言（和泉流）「柑子（こうじ）」
太郎冠者：野村萬斎 主：深田博治
後見：月崎晴夫
■落語「大工調べ（だいくしらべ）」
柳家花緑
■トーク「太郎冠者と与太郎」
野村萬斎×柳家花緑
★夜の部 19:00～ 於：横浜能楽堂
■落語「厩火事（うまやかじ）」
柳家花緑
■狂言（和泉流）「鏡男（かがみおとこ）」
夫：野村萬斎 妻：深田博治
後見：時田光洋
■トーク「男と女」
野村萬斎×柳家花緑
★昼の部
※「柑子」
管理人の席は2階。これが実に観やすい観やすい♪にぎわい座、こぢんまりしてま
すがなかなか綺麗でお気に入り空間になりそうです。
にぎわい座のハッピを着た係員の方がおもむろに舞台下に登場、口頭で携帯電話
等マナーの注意を促す（笑）。これ、良いです！電話の受話器の模型？を手にしなが
ら「お手元の携帯の、こう受話器を置いてあるマーク（会場爆笑）のボタンを押して頂
くと電源が切れます♪」。そうか～確かに寄席には機械モノがちょっと苦手な熟年の
お客さまが多いでしょうからこの説明の仕方には納得納得・・・ってか、老若男女にコ
レは効果的でしょう！通り一遍のアナウンスでは指示は浸透しません。能楽堂だって
（いろいろやりにくい状況はあるでしょうが）コレやっても良いんじゃないかとさえ思っ
たよ・・・。
緞帳（明治時代あたりの横浜の風景イラストかな？）がするすると上がるとお客さん
の目は舞台向かって右側に釘付けそして大笑い！
寄席文字で「野村萬斎」。
やられた（爆）・・・そうきたか！
舞台は横長、奥行きも能舞台と比べたらかなり浅い。橋掛かりはどーするんだ橋掛
かりは？と舞台向かって左を見ると・・・本来寄席舞台の両端にある衝立のような飾
りを横に倒して（爆）橋掛かりに見立てている。もの凄いショートな橋掛かり。よって
深田主と若旦那太郎冠者、ほんの数歩で舞台中央へ（大笑）。
舞台後方には襖、その上には"笑門福来（この語順だったかな～ちょっと不安・・・）"
の文字。違和感あるかと思ったが、舞台上の二人がそれなりに"寄席モード"に見え
てしまったか（笑）すんなりと画面にハマった感じ。さすがに・・・出囃子は無かった
（苦笑）。
管理人、「柑子」は初見。以前『解体新書』で拝見した"ミカンの白い筋を丁寧に取る
仕草"を楽しみにしていました（笑）。珍しい"三つなり"の蜜柑を太郎冠者に預けてい
た主が、太郎冠者を呼び出して「ここに出せ」と言います。（もちろん・笑）こっそり全
部食べてしまっていた太郎冠者、いろいろとそれらしい（良く考えたらアホらしい）言
い訳を並べ立て、最後には大げさに俊寛の話まで持ち出して主を煙に巻こうとするの
ですが・・・。
若旦那太郎冠者、今までだったらこういう太郎冠者の場合、悪知恵が働くというか小
ずるいというか、そういうキャラ設定を感じる事が多かったと思います。がこの日は例
のユルユル変化（笑）の所為かそれとも前出の"寄席モード"か、与太郎テイスト♪本
気でボケ言い訳をしている風にも見える。例によって出て来た瞬間からの、ほんわり
とした可笑しさは今回も健在。ここのところ、もう若旦那のフレーバーはこういうモンだ
とコチラも心からリラックスして大いに笑える。ありがたい事です。
対して深田主はいつもと違う舞台に少々緊張気味だったか（笑）？
橋掛かりに戻っていくところも、ショートなのであっという間（爆）。なんとなくお囃子付
きで退場して欲しかった気も（こら）。
※「大工調べ」
続いて"ホーム"柳家花緑師匠登場！出たよ～「にほんご」のさむーいダジャレのおじ
さん（失礼！）だよ～♪
出囃子に乗って満面の笑み・・・座布団に座ると「史上最大の企画にようこそ♪」枕か
ら大いに会場を沸かせる師匠。この枕が結構盛り沢山で・・・「にほんご」ネタやら映
画の話やらいろいろあったのですが、聴いてる自分がずーっと笑ってたので記憶が
定かでない（泣笑）。
枕からすっと「大工調べ」に突入。借家の店賃を滞納してしまった大工の与太郎が、
長屋の大家に借金のカタとして大事な大工道具の箱を取られてしまう。不憫に思った
大工の棟梁が、道具箱を返してもらう術を与太郎に伝授、大家の元に交渉に訪れた
与太郎ですが・・・予想通り話がトンチンカンで大家も大混乱。業を煮やした棟梁が自
ら大家と交渉に臨みます。ところが意見の行き違いから大家と棟梁の話は決裂、棟
梁に付いてきた当の与太郎は二人のケンカを尻目にボケまくり・・・。
「大工調べ」の序の段ということでここまで（以降は大家と棟梁の争いがお白州まで
持ち込まれる事態になるそうです）。花緑さんの与太郎がカワイイのなんの♪大家さ
んはちょっとした人生訓を展開する"長屋の知恵袋"といった風情。後のトークでも花
緑さんが仰ってましたが、客席がこの大家さんの長ゼリフのシーンになるとじーっと緊
張して聴いている様が分かったそうです（笑）。笑いの中にも一種の規律とか道徳と
か、そういったモノを織り込みつつもその直後、与太郎が絶妙のボケで落とす。その
バランス感覚も楽しい。
棟梁が大家さんに派手な啖呵を切るシーン、花緑師匠のパキパキとした江戸っ子弁
の早口が爽快極まりない！棟梁がまくし立て終わった途端客席から拍手（大笑）。
寄席なんてン十年前に1度ほど行ったっきりなので記憶にあまりないんですが、こう
いうところで拍手ってアリ？？と思いつつ堂々と拍手しちゃってた自分（苦笑）。
※トーク「太郎冠者と与太郎」
舞台中央にパイプ椅子が二つ置かれ、舞台右より若旦那と花緑師匠登場！お二人
とも洋装です（笑）！！
花緑師匠は鮮やかなオレンジのタートルネックに黒の上下、若旦那は濃い藤色（？）
のジャケットにストライプ柄のシャツ（ウェストは出してました・笑）に黒のボトム・・・こ
れが遠目では黒一色にしか見えなかったのですが至近距離で目撃（爆）した方のお
話ではもっと複雑怪奇な配色だったとか（汗）。お二人とも足元は靴下。師匠は黒一
色、若旦那は黒地にピンクのストライプが一本入っているモノ。
「緞帳上がって笑いが来ました！」とおどける若旦那（もち、あの寄席文字"野村萬斎"
の件です）。橋掛かりの代わりに花道使おうと思ったけれど二階から見えないし・・・
といろいろ考えた末、あの衝立を横にして橋掛かりに見立てたとの事。師匠「短い橋
でしたね～（笑）」。
師匠「他の落語家さんだったらどなたとこういうコラボやりたいと思います？」のツッコ
ミ質問に若旦那のらりくらりとかわしつつ「前に三越劇場で、落語に引き寄せてやっ
た事ありましたけどねぇ」。
師匠「このコラボを"戦い"だと仰る方が多いんですよぉ。『花緑！狂言なんかに負け
んじゃねぇぞ！』とかハッパかけられました（会場爆笑）・・・いや、僕としては楽しんで
るだけなんですけどね。萬斎さんの"呪"にかかりたいんです（ここで師匠二本指立て
て"呪"のポーズ！会場拍手喝采♪・・・若旦那は苦笑い）」。
若旦那「僕も勝負よりも落語を知りたいんですよね」。
ここで会場アンケート。若旦那「どうやって訊こうかな・・・じゃ、普段から狂言か落語、
どっちかは観てるって人挙手して下さい！」わらわらと手が挙がるとお二人、「こうい
う質問は難しい。『どっち観てますか？』って訊いちゃうと差し障りがあるから（会場
爆笑）」。
そういえば師匠の口から「朝4時から並んでたのは萬斎さんのファンの方ですよね
ぇ～♪」とも（驚）。
師匠「萬斎さんの声が・・・特に『陰陽師』の時の声がとても印象的でした」。ここで
二人の"声談義"になり若旦那「花緑さんのは、今日演じて下さった『大工調べ』の
棟梁の声が普段に近いかなぁと思いました。『にほんご』の声で出て来るかと思っ
た（笑）」。
ご子息ユウ君は花緑師匠の落語（ダジャレ）コーナーが大変お気に入りだそうで、
今日花緑さんに会うんだよと告げたら羨ましがられたそうです（笑）。若旦那「息子は
よく花緑さんのダジャレまねしてますよ～♪」。
師匠「以前TVで実験してたんですが、狂言の声を聴くと子供達はすぐ反応するんで
すよね。狂言の声にはそういう力があるんだなぁと思いました」。
花緑師匠、いたく『陰陽師』がお気に入りのご様子（笑）「なんでこんなに安倍晴明が
ハマったのか分かるような・・・」。
ここまでトークテーマの枕（大苦笑）。さりげなーく「・・・ではそろそろ本題に」と促す
若旦那。
若旦那「太郎冠者は人間の欲求を具現化しているところがあります」。師匠「与太郎
はバカな風体ですが、本当は頭が良いんじゃないかとも思いますね。だいたい大工
の場合は腕が良かったりするんですから」。
若旦那「おバカな与太郎を通じて、お客さんは世の中の"常識"を考えるところもある
んじゃないでしょうか」。「大工調べ」で大家さんが説教するシーン、客席は真剣に聴
き入ってました（笑）。若旦那「落語の方が今に繋がっている感じがしますよね」。
話はちょい脱線、新作について。
師匠「落語は（狂言に比べて）歴史が浅い分、まだ変わっていく」「経験の浅い最初
はまず古典をみっちり、格が上がってくるとだんだん新作に取り組むようになる。最
近では新作を自分のモノだけにしないで、みんなで共有していく傾向にあります」。
「古典の方がやりやすい。新作なのに雰囲気が古典に釣られて江戸時代風になっ
てしまうことも（笑）」という師匠に若旦那「自分達も現代的な事をやっていても（古典
的）型にはまってしまいます（苦笑）」。
若旦那＆師匠「古典というのは本当に良く出来ている。新作ではおかしな人（会場
大笑い）・・・太郎冠者や与太郎を主人公にして話を作るのは難しいところがあります」。
話を戻して（笑）。師匠「与太郎が長屋に居なかったら寂しいですね～。与太郎のバ
カさ加減を笑う事で、長屋のみんなのはけ口になってるんだと思います」。若旦那
「太郎冠者の場合、（観ている側の）自分の日常の失敗を、太郎冠者が代弁して笑
い飛ばしてくれるところがありますね」。
バカであればあるほどカワイイ与太郎、いたずらや大失敗を重ねながらそれでも「も
っとやれ！」と思わせる太郎冠者・・・どちらも人好きがしないと成り立たないキャラで
あるとも。
最後に花緑師匠「僕にとっては、落語はあくまでお客さんが主役。演じる自分はお
客さんのニーズの半歩先を行きたい。お客さんに"こびを売る"のではなく、お客さん
の喜ばせかたの深さが大切なんだと思います」。
トークの間中笑いっぱなしでメモらしいメモは全く取れませんでした（泣笑）。かなり抜
けてますし前後関係もあやふやなので気が付かれた方、訂正をお願い致します。
★夜の部
※「厩火事」
ホームを横浜能楽堂に移して第2ラウンド。はしご券を求められたお客さんがほとん
どだったか（自分もだけど）、昼の部で大笑いしほぐれにほぐれた気分で能楽堂の
雰囲気も明るい。舞台上には紫の座布団が"ナナメに"置かれている・・・あらら、花
緑師匠目付柱にむかって一席やるんですかぁ（苦笑）？？さてまず最初に注目すべ
きは"花緑師匠がどこから登場するのか"（笑）。切戸口か橋掛かりか、橋掛かりか
切戸口か？？わくわくしながら待っていると・・・
能舞台に響き渡る出囃子の音色。
場内騒然（爆）・・・またやられた～。
ぱっと揚げ幕がめくられるとやや恥ずかしそうに、それでも満面の笑みで軽く手を振
りながら、花緑師匠ササササッと橋掛かりをやってくる！！場内やんややんやの大
喝采♪
舞台中央、ゆったりと正座した師匠の表情は・・・緊張どころかご満悦といったところ。
「いや～～良いですね～♪」と、正面席の方を向いたり脇正面の方を向いたり。これ
また"能舞台の落語家"に何の違和感も無し（笑）。しっくりハマったところで導入の
枕ですが・・・これまた笑いっぱなしでメモ取れず（泣）。
枕から「厩火事」へ。髪結いのお崎が、仲人のところに相談に行く。ろくに働かない
亭主が、自分が余計に仕事を請け負って遅くなったのに、先に酒を飲んでいて「どこ
行って遊んでいたんだ」と罵声を浴びせた。普段から亭主の物言いに腹を立ててい
たお崎「もう離縁致します！」と仲人に宣言。仲人「まあまあ」と止めるかと思いきや
「それじゃあ別れなさい」。あっけに取られるお崎に仲人、厩が火事になったお大尽
の話（主人の留守中に厩で火を出してしまった使用人に、馬が焼け死んでしまった
にも関わらず帰宅した主人がまず第一に使用人の身体の無事を気遣ってくれた）な
どをして「別れる前に一度だけ亭主の気持ちを確かめなさい」とその方法を伝授する。
最近陶器に凝っている亭主の、一番大事にしている皿を誤って割った振りをして、
ソレを見た亭主が第一に心配するのが皿かそれとも女房の身体か、それを確かめ
てからでも別れるのは遅くないだろう、と。
戸惑いながらも転んだ振りをして皿を割った女房、まず女房の身体の無事を気遣っ
た亭主の態度に涙がホロリ。しかし亭主の本音は・・・。
「・・・あの・・・これってあぐりさんとエイスケちゃんですか（爆）？？今日に合わせまし
たか花緑師匠？？」と思っちゃいました（笑）。だっていわゆる"髪結いの亭主"だし
（微妙に違）♪
髪結いの稼ぎで充分二人食べていけるお崎さんはしっかり者。ところが仲人さんに
いろいろ話を聴いてるその受け答えがまぁ天然というか「女与太郎」というか（爆）。
最初はキッパリ別れるつもりだったものの、仲人さんに亭主の心を試せと言われて
だんだん不安に。いくら文句を言ったところで本当のところは亭主が好き♪そのあた
りの女心の可愛さを、おバカさと織り交ぜて見せてくれる花緑師匠。仲人さんの例え
話にうんうんと頷き、試された亭主の意外な反応・・・皿よりも女房の身体が大事、
今日は女房に夜なべの仕事があるから夕飯を用意して待ってたとの答えに思わず
ホロリ。
最後のオチは予想通りでしたが（笑）・・・「お前に怪我されちゃあオイラがおまんまの
食い上げだぁ」。
大いに笑ってホロリと泣いた楽しいひとときでありました。
※「鏡男」
今度は若旦那がホーム。花緑師匠の「厩火事」の余韻が残る中、萬斎夫、月崎鏡売
りと登場。さすがにホームグラウンド、やっぱりここの若旦那はカッコイイ♪
訴訟事が片づいて都から帰宅しようとする男が、妻への土産を忘れたことに気が付い
て、その当時大変貴重だった鏡を買い求めようとします。鏡売りから使い方を教わっ
ていざ自宅へ・・・妻が大喜びするかと思ったら「お前様は私以外の女を都から連れ
てきた！」と、鏡に映った自分の姿を別の女と勘違いして逆上！夫、必死になってあ
れやこれや鏡の使い方を説明するのですが全く理解せずますますいきり立つ妻。
そんなに気に入らないなら他の人に譲ってしまおう、と夫があきれて言うと「わざわざ
都から連れてきた女をみすみす他の人に譲り渡すはずはないでしょう！私は騙され
ませんからね！！」と、逃げる夫を追い込んで行きます。
今の時代、鏡なんて珍しくもないものですが、当時は貴重品だったという事もあって
滅多に手に入らないから、自分の顔が映し出される事が理解できない人も多かった
かも知れません。後のトークで若旦那が「今の時代ではピンと来ない話かも」と仰っ
てましたが、いえいえそんな事は無かった♪まず鏡を買い求めた夫も、自分の顔を
映して「いい男だ♪」とナルシスティック（爆）に喜んでいるところなど大笑い。怒った
顔を映して、その恐ろしさに自分でビックリしちゃったのもなんともオマヌケ。何度説
明しても、自分の顔が映り込んでいると思わない妻も、その徹底振りが滑稽至極。
昼の部にぎわい座でちょっと緊張気味に見えた深田師もこの"ホーム"では融通の
利かない妻を好演。それに振り回される夫役の若旦那は、シテながら"真の主役"
の役割はキリキリ深田妻に任せたよう。徹底的に弱り果てておられました（笑）。
前の落語で見所が"笑いほぐれて"いたようで、いつもより爆笑度数割増し（笑）の能
楽堂であったような♪
ここでタイムアップ。困ったな～トークのメモが無い（爆）。記憶が蘇る（望み薄）かど
うか・・・