京都造形芸術大学舞台芸術研究センターコーディネイト・舞台芸術学科特別授業
能ジャンクション『葵上』上映会＆トーク

2008年1月22日（火）
講師：渡邊守章



上映前に「萬斎さんが京都で撮影中だったら来ていただこうと思っていたのですが、撮影
は１２月で終わっていたのでご出席いただけませんでした」とのお話。本当に残念でした。
でも私は最前列に座ったので萬斎さんがいたら想像を絶する状態になると思いました。

渡邊守章氏のお話(大意で汲み取って下さい、敬称はつけずにお話されました)

能と現代演劇を結びつけることを榮夫と話していて、武司に現代訳を語らせる、シテは能
と同じ演じ方にした。
稽古は３ヶ月ほどしました。当時の武司は大学生でヒマだった(笑)その後、榮夫と一緒に
作り上げた。
２１歳でヘタだったが「時分の花」がある。こんな役者に会えてよかった。
今ならＤＶＤで発売することも考えたろうが、当時は記録として残すことしか考えなかっ
た。カメラ４台で撮影、鑑賞に耐えられる映像かどうか・・。
今残っているのはうちと野村家ぐらいかな、貴重な記録です。
客席貫通型の舞台で演者は常に背中を見られている状態です。
舞台の上は赤い別珍の上にビニールを敷いています。ライトは上からのみ、ビニールに当
たって照り返ります。これは能舞台の白砂と同じ効果です。

では、上映します・・・。

客席貫通型の舞台は、幅が一間位の長い通路の真ん中に二間四方の能舞台を置いた
ような形でした。もう少し大きいかな?
お客様は約２００人ほどだそうで、舞台の両側に隙間無く座っています。最前列の人はか
ぶりつきです(羨ましい・・)。
始まる前に、舞台中央に緋色の長襦袢が置かれました。
上手の幕は歌舞伎の幕のようにザッと引く感じです。
ここからレーサー服に身を包んだ武司君は、右手に火のついた蝋燭を乗せた蜀台を持っ
て登場。細いですが狂言で鍛えられたがっしり下半身、上腕にも筋肉がついていました。
でも顔はまだ少年のような幼さが残っていました。
ここでちょっと壊れかけの私・・。

とつとつ・・と「葵上」現代訳を話し始めました。
動きは非常にゆっくり(つま先だけを動かして歩く・・・何とかって説明されたの忘れた)
後でレオタード姿になって判ったのですが、ひざをちょっと曲げてやや前傾・・狂言の運び
で歩いています。
長襦袢のところまで来ると蜀台を置いて、四つばいの姿勢から肘・膝を曲げて舞台に触れ
るくらいの位置から謡が始まります。
すごく苦しいと思うのですが、声が震えるようなことは無かったです。
アップで映った顔にはもう汗が流れていました。
シテ観世榮夫さんは下手揚幕から登場されます。
このときに湯浅譲二さんのミュージックコンクレート(観世３兄弟の謡を電子音楽化)が流れ
ます。
甲高い機会音の謡ですが、ちゃんと声が聞き取れます。
それにあわせて榮夫氏も謡っていますので、ハモッて謡っているのです。後のお話で能
では舞う時は地唄が謡うのに、この時は舞いながら謡うので大変だったそうです。

この後、武司君が美しいバック転を３回！
突然の出来事で私がパニック状態に・・・また訳わかめになってしまう。

「光る君の御様子は・・美しくあでやか・・」と光の源氏の美しさを語りながらレーサー服を
サッ脱いでレオタード姿に変わりました。

語りの時に能の囃子が使われます。
「懺法(せんぼう)/朝長」「音取り/清経」

長襦袢の片衿を持ってからは、羽織るのではなく自分から襦袢の中に入り込むようにした
後、衿をぴしりと合わせうつむきます。
ここでは「夕顔」の巻の御息所の嫉妬と復讐、「葵」の巻の御息所の懊悩を語り、知らぬ
間に彷徨い出た魂に芥子の香が滲みついて離れない様子が語られています。

一旦幕に入った間に舞台中央から太いロープが降りてきました。
鐘を鳴らしながら出てきてロープの下に座ると、そのままロープを登りかけ高さ２ｍ辺りに
ある輪に片足を掛けて逆さまに・・・。
般若面のシテが周りを舞うのですが、逆さまが気になってしょうがなかったです。
舞が終わってからすべるようにロープから降り、最後にあのブリッジ状態で止めた体に赤
い砂が降ってきます。

終演後お客様に深々と礼をした武司君は恥ずかしいのか？逃げるように幕に入っていき
ました(笑)。カーテンコールは初めてですから仕方ありません？

貴重な映像でしたのに、私では勉強不足で理解不可能なところ多々。見たところをかい
つまんでお伝えするだけになってしまい申し訳ありません。

終了後のお話と質問から、
これに出演することは万作師はいい顔をしなかった。
音は、会場音と謡は録音。(お客さんの咳も入っていました)
先日能楽協会で見せたら４〜５人初演を観た人がいた。
話しを聞くとあのロープのところしか覚えていなかった・・(苦笑されていました)
レオタードの色は舞台が赤いので引き立つ色にしようと考えた。
青く見えるが実際は紫色。
映像はカメラマンが武司に入れ込んで撮っていたが、それに耐えるのはたいしたものだ。


若さと狂言で鍛えた声・体をぶつけた初舞台だったと思います。
渡邊氏は何度も＜時分の花＞があったとお話されました。