能を知る会　東京公演別会


2005年6月19日（日）13:00～　於：国立能楽堂


■講演「神話の能」　増田正造

■能「玉井（たまのい）」貝尽し
　　豊玉姫・海神ノ宮主：中森貫太
　　彦火々出見尊：森常好
　　従者：舘田善博・森常太郎
　　玉依姫：鈴木啓吾
　　天女：佐久間二郎・古川充
　　栄螺ノ精：野村萬斎
　　貝ノ精：深田博治・高野和憲・竹山悠樹・月崎晴夫

■狂言「竹生島参（ちくぶじままいり）」
　　太郎冠者：野村萬斎
　　主：深田博治

■仕舞
　「逆矛（さかほこ）」観世喜正
　「三輪（みわ）」観世喜之

■能「小鍛冶（こかじ）」重キ黒頭
　　童子・稲荷明神：五木田三郎
　　三条宗近：殿田謙吉
　　勅使：芳賀俊嗣
　　宗近ノ下人：竹山悠樹

　　　　　※地謡・囃子方・後見は省略あしからず



※『玉井』貝尽し

元ネタは"海幸彦・山幸彦兄弟"の釣り針を巡るおなじみの物語from「古事記」。彦火々
出見尊（ひこほほでみのみこと＝山幸彦）が兄の火照命（ほでりのみこと＝海幸彦）か
ら借りた釣り針をあやまって海でなくしてしまい、その釣り針を探しに従者2人を従えて、
海中の竜宮にやってきます。竜宮の入り口に玉の井戸があり、そこに龍王の娘・豊玉
姫が妹の玉依姫を連れて水汲みに来る。二人の手には水を汲む缶が。慌てて木陰（海
の中だから海草だろか？・笑）に隠れた尊の一行、しかし玉井の水に姿が映ってしまい
豊玉姫は大変驚いてしまいます。中森貫太師の豊玉姫、言葉に上手く表せない程の可
憐さ。面に"姫の高貴さ"と"可愛らしさ"が同居。表情が生きている。面のまぶたが上下
したり、唇が動いてそこから本当に声が発せられているかのような錯覚が起こる。いや
錯覚じゃなくてホントだったのか（爆）。
一目で恋に落ちた（笑）尊と豊玉姫、夫婦になる約束をして龍王のもとに挨拶に行くこと
になります。恋の成就の喜びを表すかのように舞台中央で美しく舞う豊玉姫。

尊＆従者が脇場に引っ込み、豊玉姫＆玉依姫が退場すると、代わりに揚げ幕からやっ
て来るのはサザエの精（笑）。間狂言の始まり始まり～♪黒頭の上にサザエの作り物を
のっけて、ちょいとギンギラ気味の装束に身を包む姿に見所吹き出す（笑）。「めでたい
事（尊と豊玉姫の事）があったのでお祝いに酒宴を開こう！」と、貝の精の仲間達を手招
きで呼びよせます。揚げ幕からぞろぞろと繰り出す貝の精達・・見所堪えきれず大笑い。
なぜなら彼等の頭の上にもほら貝・ハマグリ・ホタテ・アワビの作り物が。鬘や装束も凝
って華やかで、舞台上が一気にハデハデしくなる。
サザエ親分（笑）が尊と豊玉姫のなれそめをとうとうと語り、今回の宴は探していた兄の
釣り針が3年ぶりに見つかったので尊が故郷（地上）に帰る、その門出のお祝いだと酒
の用意をします。サザエが若旦那、ホラ貝が深田師、ハマグリが高野師、アワビが竹山
師、ホタテが月崎師。それぞれ賢徳やうそふきや乙の面を付けています。紅一点（笑）ハ
マグリたかのんがまずみんなにお酌。なんかまだ"お菊"が入ってる気がしますたかのん
（大笑）。酒を酌み交わしそれぞれ謡ううちにドンドン上機嫌になる貝軍団。最後のシメは
もちろんサザエ親分。なんと面のほっぺがほんのり赤くなっているではないか！！そう
見えてしまうほどの面の生き生きとした在りよう。サザエ親分の、美しさと滑稽さと力強さ
の混在した舞で、会場は一気に室町時代にタイムスリップ。『まちがいの狂言』でも感じ
たこの感覚、今回はもっともっと強烈でした。"国立能楽堂"で演目演ってることさえすっ
飛びかけた（爆）。囃子方の音色さえ違って聞こえる。万作家一門のマジック、ここでも
健在なり！

貝ダンサーズ（笑）退場後、替わって天女2人が手に一つずつ玉を持って登場。"潮満（し
おみつ）"と"潮涸（しおひる）"という名の二つの玉は、これを持つ者が水を自在に操れる
というアイテム。のちのち、結局兄と仲違いになった尊が、兄との戦の際にこのアイテム
を使って勝利するという物語に続くと、講演でお話がありました。天女達に続いて海の支
配者・龍王が登場！白い狩衣に白頭、その上には大きな竜の作り物・・・これが大変手
の込んだ作りで非常に美しい。前場では可憐な豊玉姫だった貫太師が、後場では威厳
タップリの龍王に。右手で杖をつき、左手には大きな金色の釣り針が。天女が2つの玉を
龍王が釣り針を尊に手渡すと、龍王は一旦橋掛かりに引っ込み、天女達が華麗に舞台
中央で舞い始めます。続いて龍王の荘厳な舞。貫太師は声も良く通る。しばし"海の支
配者達"の舞に酔わせていただくと、やっと目的を遂げられた尊が、天女達に送られるよ
うにして退場（地上に帰る）していきます。

約1時間40分の大曲だったのですが、その長さをほとんど感じさせない、楽しさ盛り沢山
の"海のおとぎ話"を心から堪能させていただきました♪『玉井』、イチオシ演目に登録で
す（笑）！！



※『竹生島参』

あああ、確かに増田先生は「ちくぶしまもうで」と仰ってたような（汗）・・・「狂言ハンドブッ
ク」には「ちくぶしままいり」となってる。どっちだー！

揚げ幕より主＆太郎冠者登場。例によって例の如く（笑）すでにどっかが可笑しい新ゴー
ルデンコンビ。無断外出してしまった太郎冠者を叱ってやろうと、太郎冠者の家に出向く
主ですが・・・舞台後方で待機している若旦那太郎冠者の表情が・・・誰か若旦那の両の
目尻をもう少し引き上げてやって下さいませ（泣笑）。ユルい・・・ユル過ぎる・・・それだけ
で笑えますから！！
そのまま声をかけたのでは、太郎冠者は居留守をつかって出てこないだろうと考えた主
声色を変えて「ものも、案内も～」。まんまと引っかかった太郎冠者、のこのこと玄関に顔
を出してしまい。主に怒鳴られてビックリ仰天。「なんで私に無断でどこかへ行った！！」
とすごい剣幕の主に「竹生島参りに行ってまいりました～。いちいちことわらなくても良い
かな～？と思いましたもんで・・・」と答える太郎冠者。すると主「竹生島参りに行ったのな
らまぁ許そうか」と急に態度を軟化させる。信心深いヤツだ、と思ったか（笑）。

ならばと主、太郎冠者に竹生島参りの様子を聞き出します。「向こうに行って、何か変わ
ったことは無かったか？」すると太郎冠者「すずめとカラスは親子だと分かりました！」。
唐突な答えに見所も「？？？」。太郎冠者が説明するには「すずめとカラスが同じ枝に
留まって・・・すずめが"ちーち、ちちっ"と鳴いたらカラスが"こーか、こかっ"と答えました
ので」・・・「父、父」「子か、子か」という、「笑点」林家木久蔵師匠を彷彿とさせる阿呆満
開のダジャレ（"木久蔵師匠みたい"は当サイト某常連さんのご指摘です・笑）。若旦那
はユルユルお間抜け顔で言い放つし、深田主はそらもうくそまじめな表情で聞いてるし
・・・。

「他に変わった事は？」と問う主に太郎冠者「動物たちが宴に集まって秀句（しゃれ）で
会話をしておりました」・・・あうあう、竹生島っていったいどんなとこなんだ（苦笑）・・・。
集まっていた動物は辰・犬・猿・蛙・蛇（くちなわ）。それぞれ宴の場を去る時に「辰は『お
座敷を"立つ"』、犬は『お座敷を"去ぬる"』、猿は『お座敷を"去る"』、蛙は『お座敷から
"帰る"』と言いました」と、身も凍るブリザード（爆）なさむーーーいダジャレを次々に披露
する太郎冠者。それこそ「笑点」のようにお客さんが先にネタを言ってしまいたい衝動に
かられてしまう（苦笑）。観る人によってはドン引きにもなりかねないオヤヂギャグの連
発、しかしそこはこの"新・ユルユルコンビ"、仕草や表情、話法で笑わせてくれます♪こ
んなに寒いのにウケるウケる（笑）。

「ところで"くちなわ"は秀句を言わなかったのか？」と突っ込む主に太郎冠者はたと困
る（笑）。「"くちなわ"は・・・無かったなぁ・・・」テキトーにいい加減な答えを言うとそれま
で上機嫌だった主がぱっと眉を曇らせ太郎冠者を叱りつけます。結局、さむーーいダジ
ャレも太郎冠者の口から出任せだったのか（苦笑）？

ロビーの看板には上演時間20分となっていましたが、それよりずっと短く感じられてあっ
という間に終わってしまったという印象です。もしかしたら前の『玉井』の"貝ダンサーズ"
の印象が強烈だった所為かも（苦笑）。
しかしこの狂言でも、『玉井』のアイでも、皆さん良く笑っていらっしゃいました～。



※仕舞『逆矛』『三輪』

観世喜正師の舞台（地謡除く）というのをまだ拝見したことがなかったので、この仕舞も
楽しみの一つでした。
なんと言っても私の愛読書（笑）の著者でもいらっしゃいます（「『井筒』で東京から名古
屋まで行けるくらい熟睡出来ます」と書いちゃったお人です・笑）♪
一応その著書の中でご自分を"（女を演じると）180㎝近い大女になってしまう"と評され
ている喜正師、仕舞が始まり立ち上がった瞬間「うわっ、でっかい！！！」と口の中で叫
んでしまいました（苦笑）。
しかし舞はダイナミック且つ繊細。長い手足の動きでも大雑把な印象は全くなく、所作が
本当に綺麗で見入ってしまいました。著書のお写真よりも少し痩せられたのかな？すっ
きりとしてなかなかの男前でございました♪
対するお父様・喜之師の舞は枯れて静謐な印象。身長バランス（笑）は全然違いますが
やはり練馬方面の父子を思い出してしまう・・・良いですねぇ、こういう親子競演。


※『小鍛冶』重キ黒頭

一条天皇の勅使が登場、刀鍛冶の名工・小鍛冶宗近に御剣を作るよう命を下します。
いくら宗近が名工であったとしても、自分に合った力量を持つ相方（＝相槌・あいづち）が
いなければ刀は打てません。相方がいないのに悩んだ宗近は神仏の力を借りようと、
氏神の稲荷明神に参詣します。
参詣に行く途中、宗近は一人の美しい少年と出逢います。ここで喝食面を付けた少年
が登場。小柄ですがなんともたおやかな、それでいてどこか近寄りがたい雰囲気を持っ
た美童・・・前半、少々睡魔が襲ってきたのですが、この美少年の登場ですっかり覚醒
致しました（爆）。
この少年、宗近が勅命を賜ったことを言い当てると、草薙の剣の故事を舞と謡に合わせ
てとうとうと語り始め、最後に宗近に「（剣を打つ）支度をして自分を待っているように」言
い含めていずこへともなく去っていきます。

アイは竹山師演じる宗近ノ下人。ここのところ、竹山師のアイを拝見することが多い。今
回はここまでの顛末を語る役割なので、やや重めの語り口が良かったです。

後場、舞台上には刀鍛冶が使う、刀を叩く台が置かれます。場面が鍛冶場に変わる。
宗近がここで祈りながら待っていると、囃子方の調子がガラッとアップテンポに変わり、
揚げ幕には黒頭の稲荷明神の姿が。先ほど宗近の前に現れた美少年はこの稲荷明
神が姿を変えたものでした。激しさを増す囃子方の拍子に合わせ、刀を打つ槌（つち）
を手にして、やや狂おしげに舞う稲荷明神は迫力満点！！さっきの美少年が白っぽい
装束だったので、お稲荷さんということもあるし、本性が現れてからも白い装束での登
場になるかと思っていたのですが・・・実際は黒頭にマッチした重々しい色の装束でし
た。
やがて約束通り、稲荷明神は宗近と力を合わせて槌を刀に振り下ろします。囃子方が
スピーディーなリズムで音色を奏でているので、ちょうど刀を打つ擬音を出しているよう
にも聞こえました。時折、稲荷明神が正面をカッと見据えるのですが・・・座席の関係で
バッチリ目が合ってしまい（爆）・・・ちょっと軽い金縛り状態でした（泣笑）。
後で調べたのですが「相槌を打つ」という言葉の語源はここにあるそうです。
稲荷明神との合作で見事剣を作り上げた宗近、一条天皇の勅使にその剣を手渡すと、
安堵したように橋掛かりに退場していきます。


ボリューム満点の能2つに狂言に仕舞・・・久々にお腹一杯"能の会"を堪能した気分で
す。時間の都合上、貫太先生の質疑応答までは居られなかったのが残念ですが・・・
なにより"もう二度と体験出来ないだろう良席"（笑）での鑑賞でしたので言うことはござ
いません♪
メリケン帰りの万作家、皆さん元気で良かった良かった★