野村万作・萬斎狂言公演
「唐人相撲」
3月28日（土）15：00〜 於：滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール中ホール
■解説：野村萬斎
■能楽囃子
大鼓 亀井広忠 小鼓 田邊恭資
太鼓 小寺真佐人 笛 一噌隆之
■『見物左衛門 深草祭（けんぶつざえもん ふかくさまつり）』
見物左衛門：：野村万之介
■『唐人相撲（とうじんずもう）』
皇帝：野村万作 相撲取り：野村萬斎 通辞：石田幸雄
楽人：高野和憲・竹山悠樹・大東顕太郎※・山本幸志郎※・市川武※
・湯田拓也※
武官：月崎晴夫・播磨伸彦※・すがぽん・廣田哲也※・堅山隼太※・平原テツ
・宇貫貴雄・花田孝文・島田悠作・平井量太※・入月謙一・板谷隆次
側近：深田博治・時田光洋・牧嶋平・徳山裕憲
唐子：巽拓人※・西川慶※・小堀峻※・石橋新之亮※
文官：藤井健※・岡田富美夫※・河田圭輔※・森川稔※・若林勲※・小美濃利明
髭掻：野村万之介
（名前の後に※印のある方は、オーディションで選ばれた地元の方々です）
まず舞台装置。この会ではいつも「現代劇場における狂言」を見せてくれますので、据
え置き式の能舞台も使われずシンプルな舞台装置なのですが、今回は特にそうでし
た。真っ黒な床の上には、ちょうど本舞台と同じくらいの大きさの白いパネルが敷かれ
ているのみ。その両側に、欄干だけの短い橋掛かりが設けられています。背景の黒い
幕の前には、白いスクリーンが下がっています。
開幕のアナウンスが入り、開幕ベルが鳴る…と思ったら聞こえてきたのは「テケテン、
テケテン、テケテン…」という相撲の呼び出し太鼓の音！続いて「ジャーン、ジャーン」
と大きな銅鑼の音が鳴り、舞台が明るくなると、背景のスクリーンに「野村万作 野村
萬斎 唐人相撲」という文字が映し出されて始まりです。
■解説
いつものように黒紋付で登場の萬斎師。さて第一声は「こちらのホールは落ち着いた
感じですねぇ。お隣ではモーニング娘。のコンサートをやってまして…」やっぱりツカミ
はそこか（笑）。「楽屋にいると隣の音がガンガン響いてきて、どうもみんな落ち着かな
いんです（苦笑）。なんか暴徒みたいなファンもいましたが」そうかモー娘ファンは暴徒
か。「まあ、あちらは貸し館、こちらは主催公演なので、落ち着いていきましょう」とよく
わからない締めでしたが。
今回はホール開館10周年記念公演ということで、こけら落としとして「三番叟」を舞って
以来、毎年１回の定期公演を続けてきたとのこと。「我々だけのことではなくて、10年
間、見に来てくださる方がいてこそのことです」と。10回もやっていれば、その間にいろ
いろなこともあり、ご子息・裕基くんの初舞台『靭猿』全国ツアーの公演もこちらでやり
ました。「その時はもう４歳になってたと思いますが。ちょうどこちらに来た時に熱を出し
まして。38度か9度あったと思いますが、やらせました。今考えるとひどい親ですねぇ
（笑）」いや笑ってる場合では。さすがに厳しい芸の世界だと再認識するエピソードで
はあります。
続いてそれぞれの曲について。『見物左衛門（けんぶつざえもん）』は、狂言の中では
唯一の、出演者が一人という曲。話題の中にさまざまな人物の名前が出てきますが、
基本は一人芝居で、状況説明になります。「まあ簡単に言うと、テレビの旅番組です
ね（笑）」。見物左衛門が祭見物に出かけ、その途中で九条の古御所の観光に行く。
馬屋や掛け軸、競馬を見物して、そのありさまを詳細に語り、観客はイメージを広げま
す。「爆笑のある曲ではありません。この狂言ができた当時の、中世の人々がどんな
ものを見て感心したか、何をおもしろいと思ったか、の感覚がわかる曲です」。
最後に、見物左衛門が節句の行事である相撲を見に行き、そこで騒動に巻き込まれ
るのが見どころ。相撲が出てくるところで『唐人相撲』 につながります。「見ている方の
イマジネーションを問われる曲です。言葉ではわかりにくい部分もありますので、そこ
は背景のスクリーンに映像を映して補います。それも合わせて旅番組です（笑）」と。
続いて『唐人相撲（とうじんずもう）』 について。これは狂言の中では唯一、舞台が日
本ではない曲。中国の宮廷が舞台です。和泉流ではこの曲の他に『唐人子宝（とうじ
んこだから）』 『茶子味梅（ちゃさんばい）』と３曲の「唐人もの」がありますが、後の２曲
はいずれも、日本に来た唐人の話です。
またこの曲は、狂言の中では最大人数の登場する曲。「最少人数と最大人数の曲の
組み合わせです（笑）」。役者が36人、囃子方の４人を含めて総勢40人になります。
「東京から全員連れてくるとお金かかるし（笑）私、文化庁の文化交流大使というお役
目もいただいてますので、少しは助成金欲しいので（おい）今回は、10周年記念という
ことで、地元の皆さんにお手伝いしていただくことにしました」。唐人は、いつもの狂言
の構え、すり足の歩き方とはちょっと違って、足を跳ね上げるように歩きます。「一般参
加の皆さんもお稽古していただいたんですが、まぁちょっと、歩き方を見るとプロとは違
うのがわかってしまいます。そうそう簡単に真似られると我々が困るんですが（笑）」。
さらに唐人のセリフは「唐音」というデタラメ中国語。時々、熟語を音読みした言葉も混
じるので、なんとなく意味が通じるところもあります。
最後は皇帝の登場となり、「楽」という舞を舞います。ここで能がかりになり、ぐっと格
が上がるのも見どころです。
さて解説の最後は、お稽古の時間（笑）。唐人たちが相撲の応援で「ホーチャー、ホー
チャー」という掛け声をかけますが、これを客席も一緒にやりましょう。ということで
「Repeat after me！」萬斎師に習って全員で「ホーチャー、ホーチャー」。続いて客席
を通路で右・中央・左の３ブロックに分けて「ホーチャー、ホーチャー」の輪唱。男性の
野太い声（爆）や、お子さんのかわいい声が混じって、なかなか楽しい輪唱でした。
■能楽囃子
解説の最後に萬斎師が「能楽囃子は『早舞』をやっていただけると思うのですが。精
鋭の方々の演奏をお楽しみください」と言って退場すると、舞台の照明が落ち、白い舞
台の上に、右から緑、青、赤、黄色の光の円が浮かび上がりました。出てきた囃子方
の面々が、それぞれその円の上に座り、演奏が始まりました。
まず一噌隆之さんが笛を吹き始めると、舞台の円と同じ緑色のスポットライトが当たり
次には小鼓の田邊さんに青のスポットライトが…という風に、順番に色のスポットライト
が当たっていきます。何というか…キャバレ（略）いやいや、ショーっぽいですねぇ。囃
子方さん達、こんな照明の中で演奏することはあんまりないだろうと思うのですが。色
はそれぞれの方のイメージなんでしょうかね。広忠さん赤か（笑）。
前半のスローパート（？）が終わり、テンポが上がってきたところで色の照明が消え、
明るい白一色の普通の照明になりました。メロディーは「早舞」と萬斎師が紹介したの
でたぶんそうだと思うのですが、神懸かりの男性や神さまが舞う時の、太鼓入りで早
いノリの曲です。さすがに広忠さんと小寺さんの掛け声は迫力があって気持ちいい！
颯爽と力強く舞うシテ方をイメージできました。
■『見物左衛門 深草祭』
パンフレットの語句解説によると「深草祭」とは、伏見の藤森神社の祭礼で、端午の節
句の発祥と言われているそうです。
その名の通り、祭見物が大好きな見物左衛門。深草祭の見物をしようとあちこちの友
人に声をかけますが誰も都合が合わず、一人で京に出かけてゆきます。祭が始まるま
で時間があるので、九条の古御所を見物しようと寄り道します。この「九条の古御所」
がどこなのかは解説にもなかったのですが、九条あたりにある離宮みたいなものでし
ょうか。見物左衛門のような庶民が入れるということは、祭の間だけ一般公開（笑）し
ていたのかもしれません。
「まずはお馬屋を見よう」と見物左衛門が言うと、背景のスクリーンに、馬がたくさん描
かれた中世の絵巻物をクローズアップした画像が映し出されます。「姫栗毛、額毛、黒
毛、いずれもみごとな馬じゃ」と感心しながら馬屋を見て回る見物左衛門。「七間馬屋
と五間馬屋がある」と言っているので、たくさんの馬を飼っているというのがわかりま
す。
続いて見物左衛門が見るのは、中国の景勝地・洞庭湖の八景を描いた、三幅一対の
掛け軸。ここでもそれらしき掛け軸が、背景のスクリーンに映し出されます。掛け軸の
ついでに、室の畳や柱などの調度も見物。「畳は繧繝縁（うんげんべり）に高麗縁（こう
らいべり）、柱は黒ずみに蒔絵を書かせられた…」などと言うところから、格式ある宮廷
であることがわかります。
さらに競馬（くらべうま）の騎馬武者の勇ましさや落馬するさま、節句の祝いの幟など、
見物左衛門のレポート（笑）が続きます。それに合わせて背景のスクリーンにも中世
絵巻が次々と。
最後に見物左衛門が見るのは、節会で行われる奉納相撲。ずうずうしく人垣を押しの
けて最前列に陣取った見物左衛門。昔ちょっと相撲をかじったことがあるようで、力士
の腰が高いだの行司がじゃまになって見えづらいだの文句をつけます。いますよねぇ
こういう人。
で、見物人の一人に「そんなに言うなら自分が取ってみろ！」と言われ、土俵に出て
取り組むことに。もちろんこれも一人で取り組む格好だけをする、文字通りの「独り相
撲」。一番目は勝ち、再び挑まれて二番目は負けてしまい、ハデにひっくり返ります。
相手が去っていくのを「待て待て、もう一番取ろう」と追いかけていって幕となります。
万之介師が独特ののんびりした口調で、これを見、あれを見ながら歩いているのは
「ぶらり途中下車」か？という風情。「あれあれ見物左衛門さん、また寄り道ですか〜」
みたいな（笑）。画家の名前や絵の題材など、事細かに見物左衛門がレポートしてく
れる（というか独り言）のですが、哀しいかな、こちらの知識がありませんので、耳で聞
いただけでは意味がわからない…山水画に詳しい方が聞けば「おお、すごい絵じゃん
！」と思われるかもしれません。中世文化の知識がないとイメージしづらい部分が多い
ので、背景の映像があるのは正解と思いました。これを能舞台でやられると…ちょっと
難しいかなぁ。まぁそういうことを気にせず、のどかな風情を楽しむだけでいいのかもし
れませんが。
■唐人相撲
休憩時間をはさんで第２部。開幕ベルの代わりにまたしても「ジャーン、ジャーン」と銅
鑼が鳴り、場内の照明がすべて落ちて真っ暗になりました。非常口のライトまで消え
てます。舞台にも黒い幕が下りたまんま。
その黒い幕の前、舞台下手の端にピンスポットが当たり、光の中に萬斎相撲取りが登
場。次第を述べて引っ込みます。ピンク色の掛素襖に烏帽子という、華やかな装束の
萬斎相撲取り。後の席の女性がたが「まぁーお人形さんみたい」と言ってました（笑）。
黒い幕が上がったその向こうの舞台も、またしても黒。第一部でも使われていた床の
白いパネルはそのままですが、橋掛かりはありません。正面奥に、３段くらいの階段
状の赤い玉座が据えられ、その両側と舞台の上手下手の角に、中国風の赤い柱が４
本立っています。前の柱より奥の柱の方がやや低くなっていて、遠近感を出していま
す。玉座の後に、天井から床までの白いスクリーンが下がっています。
管理人さんのレポによると、「狂言劇場」では四本の橋掛かりを駆使した演出でしたが
こちらは橋掛かりも角柱もない、ごくシンプルで抽象的な現代劇の舞台装置。この装
置だけ見れば、この演目が狂言であるという前提は何もありません。
囃子の「楽」の音が流れ始めると、スクリーンに皇帝とその臣下一行の行列が、シル
エットで浮かび上がりました。足を跳ね上げる独特の足取りで、ゆったりゆったり進ん
でくる行列。皇帝がちょうど玉座の後にさしかかると、シルエットがクローズアップでぶ
わっと大きくなり、会場は爆笑！えらいデカい皇帝さんやなー。スクリーンの後から行
列が舞台に現れ、皇帝が玉座に着きます。その玉座を中心にして臣下が左右に分か
れ、赤い柱と柱の間にずらりと居並びます。スクリーンがするするっと天井にしまわれ
ると、背景の黒い幕の、玉座の上の方に、白い線で描いた小さな宮殿のイラストが現
れました。つまり宮殿を出て、離宮かどこかに行幸しているということですね。
さて物語の始まり始まり。基本的なストーリーは省きますが、仕込んであるネタは同じ
のようで、皇帝の「…コロッケ」もありました。石田通辞が「…ババ」と言ってみたり。石
田通辞、馬場ファンなのか（笑）。
「狂言劇場」を見てないので、ネタ（ネタ言うな）の順番が同じかどうかわかりませんが
まず口開けは、相撲取りと一対一で果敢に取り組む側近代表の深田さん（石田通辞
に「シンデン、シンデン」と呼ばれてました）。狂言師の身体能力を十分に見せつけて、
客席からは「ほおー」と感嘆の声があがっていました。
この後は、狂言のお弟子さん、ダンス・現代劇チーム、オーディション組の一般の方々
が入り交じり、さまざまなネタ（だからネタ言うな）を見せてくれます。覚えてる限り箇条
書きにしてみましょうか。
・３人組でブレイクダンスよろしく足をぐーるぐる、
相撲取りの足を引っかけようとするも逆襲
・４人で肩車×２で「合体！分解！」
・人間ピラミッド（最後に崩れるのはお約束）
・平原テツさんの「紙相撲」
・すがぽんさんのパントマイム「壁」と「投げ縄」
・高野さんの「柔軟体操」
・松葉くずし（笑）
・唐子ちゃん２人の「キャタピラー前転」
・月崎さんのヘタレ逃げ回り→宙返り
唐子ちゃんは残念ながら裕基くんではなかったのですが、通辞は２人を呼び出す時に
「リンリン、ヨウヨウ」と呼んでました。役名がついてるのか、と思いきや、石田通辞が
ぼそっと「勇気凛々、前途洋々」（笑）。石田通辞、どうしてもこれを言いたいらしい。
次々出てくるネタに、会場はもう大喜び。一般参加の方のご家族でしょうか、「がんば
れー！」という声援も。負けたら「ああ〜」という声が漏れ、それでも一つ一つに拍手が
わきます。狂言というよりは「隠し芸大会」かサーカスを見ている感じ？
一般の方は、どういうオーディションだったのかはわかりませんが、ダンスとか体操と
か、それぞれの特技を生かしたネタに組み込まれているのでしょうね。複数でやるネタ
の時は、必ずプロのお弟子さんが入ってリードしているようでした。
臣下全員がつながっての「ムカデ行列（？）」では、一人ずつが前の人の股に頭を突っ
込んでつながっていくのですが、大人数なだけにちょっともたつく感があります。すると
すかさず、石田通辞が「ホーチャー、ホーチャー」と応援しながら「カンキャク、セイエン
！」と客席をあおる。客席は大喜びで「ホーチャー、ホーチャー！」。さっきお稽古しまし
たからね（笑）。「ホーチャー、ホーチャー」の大声援の中、長〜いムカデが相撲取りに
ひねられ、ドミノ倒しよろしく全員がぐるんぐるんとひっくり返ると、会場はもう拍手喝采
です。
皇帝が玉座で立ち上がり、厳かに「楽」の舞を舞うのを見て「ああ、これ狂言だった
わ」と思い出しました（苦笑）。さすがに万作皇帝の舞は威厳があり、それでいて狂言
ならではの軽やかさもあります。「ニッポンジン、イヤー！」の一声には、やっぱり客席
爆笑でした。
最後は登場の時と同じように全員で行列を作り、背景に下りてきたスクリーンの後ろ
へ。去っていく相撲取りを見送る一行の姿がシルエットで映し出され、なごやかな余韻
が漂うエンディングとなりました。
いったん幕がおり、再び上がった時には舞台上に全員が整列。拍手に包まれる中、萬
斎師の合図で一般参加の方々が進み出て一礼。さらに拍手が大きくなり、萬斎師は
じめプロの方々も笑顔で拍手を贈っていました。
これが純然たる狂言の曲として、レベルの高いものかどうかは判断できません。けれ
ども、経験も年齢もさまざまな人たちが参加して、さらに観客も巻き込んで、密度の高
い１つの舞台を作りあげた、そのことそのものに意味があるのではないかと思います。
何より見ていて、それぞれが頑張っているのが伝わってくるのが一番でした！
「狂言劇場」では本来の能舞台より多い橋掛かり、今回は逆に橋掛かりも角柱も揚げ
幕も無し。能舞台の形式をすべて取っ払うというのは、ある意味すごいチャレンジだと
思うのですが、今回の演出で、この曲が総合エンターティメントとして、どんな劇場でも
上演できることを証明したのではないかと思います。
【るーなさんご報告】
瑞穂さん、お疲れ様です。
レポ全部おまかせしてしまって申し訳ありませんでした。
３月始めの暖かさでふくらみ始めた桜は花冷えで一時休憩。
今週末が見ごろになってしまい、関西圏へ遠征の方々には残念なことでした。
さて、このびわ湖場所(違)の案内と一緒に出場者の募集もあって、
一瞬その気になったのですが(笑)やはり男性限定ということで残念でした。
関西公演があるときに稽古の日程を組まれていましたよ。
短い時間の稽古で皆さん度胸がありましたね〜。
休憩中にちょこっとお話していました、
「国盗人」〜再演〜の関西の日程がわかりました。
場所は前回同様の兵庫県立芸術文化センター
平成２１年１２月１６日(水)〜１８日(金)
う〜ん、平日！